借金返済|自己の関連している企業への貸倒引当金は無効?

原告
D’
E’

主文

原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の申立て

(原告)
「被告が原告に対し昭和四一年一一月三〇日付でした原告の昭和三九年分の所得税更正処分のうち所得金額四七八万四、一八九円超える部分を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。」との判決
(被告)
主文と同旨の判決

第二原告主張の請求原因

原告は、合同印刷株式会社の取締役であつて、同社ほか二社から給与を受けているものであるが、昭和三九年分所得として、所得金額三七八万九、一八九円、税額八二万三、二四七円と確定申告したところ、被告は、損金五二五万七、八四七円のうち貸倒元本四九一万八、三三三円と公租公課、五万三、三三〇円を否認し、所得額を九七五万五、八五二円、税額を一九三万二、三八〇円と更正した。
しかし、右貸倒金は、原告が昭和三四年七月より昭和四〇年一〇月までの間小河内観光開発株式会社に対し前後二二回にわたつて貸し付けた合計三、三一九万五、一四六円のうち、昭和三九年一二月末現在で回収不能となつた貸金元本一、四八五万五、〇〇〇円の一部であるが、原告は、右期間中、前叙のごとく、小河内観光開発に対して合計三、三一九万五、一四六円を貸し付けたほか、合同印刷株式会社に対して五〇万円、株式会社静わさびに対し二回にわたつて計六〇〇万円、株式会社森島直線工業所に対し五回にわたつて計一〇〇万円以上合計四、〇六九万五、一四六円を、二〇数回にわたり、不特定多数の者に貸し付け、利息金額も、小河内観光開発分計一二〇万二、六七一円、合同印刷分八、七〇〇円、静わさび分二九二万五、六〇〇円、森島直線分五万円となつていて、それが総所得金額において占める割合いは、一二・七パーセントないし二〇・四パーセントに達しており、しかも、勤務先ではあるが合同印刷の一隅に事務所を設けて右の貸金業務を行ない、これに携わる会社の従業員には特別の手当てを支給していたのである。
したがつて、原告の右貸金行為は、所得税法上の事業に該当し、その貸倒金は、他の経費とともに、損金として処理されるべきものである。
それ故、右貸倒金の存在ないしその損金性を否認してなされた本件更正処分は、違法たるを免かれない。

第三被告の答弁

原告主張の請求原因事実中、貸倒金の存在とその損金性および利息収入が総所得において占める割合いがその主張のとおりであることは否認するが、その余の主張事実はすべて認める。
所得税法上ある計算年度に債権の貸倒れが生じたとして、その額を当該年度の損金に計上することが許されるには、当該年度中に債権の弁済期が到来し、かつ、その年度中に債務者において破産もしくは和議手続の開始、事業の閉鎖、失そう、刑の執行、債務超過の状態が長く続き衰微した事業を再建する見通しがないこと、その他これに準ずる事情が生じ、債権回収の見込みのないことが確実となつた場合でなければならない。
ところが、本件の場合、小河内観光開発は、昭和三九年八月二一日開催の取締役会において、原告からの借入金一、四七五万五、〇〇〇円の返済につき協議をしながら、その具体的方策の決定は留保し、その後においても、原告の前記計算の根拠となつたような決定の行なわれた事実は認められず、また、原告において、小河内観光開発に対し債権の放棄または債務の免除をした明らかな事績はなく、同会社においても、その後の確定決算において債務免除益を益金に計上した事実はないのであるから、昭和三九年中において小河内観光開発に対する債権回収の見込みのないことが確実となつたとはいえない。
また、仮りに原告主張のような貸倒れの事実があつたとしても、原告は、金融業の店舗その他の設備をもたず、従業員も雇つておらず、もとより金融業者としての届出もしていないばかりでなく、貸付けの相手方は、原告と特殊の関係にある者ばかりであつて、不特定多数の者とはいえないこと、貸付資金は、主として中央信用金庫駒形支店からの借入れによつているが、原告は、その借入れに当り同金庫に対し自己所有の土地を担保に供しているにもかかわらず、右借入資金を小河内観光開発に貸し付けるに際しては何らの担保も徴しておらず、しかも、借入金に対する利率と貸付金の利率とは同一で、原告は、貸付先の小河内観光開発から受領した貸付利息を受領した都度同日付でそのまま借入先の中央信用金庫駒形支店に支払つていることまた、原告の利息収入の総所得金額において占める割合いは、昭和三九年分については二八万六、一八四円(申告額五二五万七、八四七円)の赤字、昭和四〇年分については、〇・四パーセント(申告額は七〇三万八、六一九円の赤字)にみたないのであるから、原告は、生計の主たる収入を金銭の貸付によつて生ずる利息をもつて賄つているとはいえないこと、そのほか、原告が金銭の貸付のために広告宣伝等の活動を行なつていないこと等からみて、原告の前記資金貸付行為は、非営業貸付であるというべく、したがつて、その貸金元本等の回収不能は、資産損失であつて、所得税法上の必要経費には該当しえないものである。
第四証拠関係(省略)

理由

原告主張のような経緯によつて本件課税処分が行なわれたことは、被告の認めて争わないところである。
おもうに、所得税法上債権貸倒れの事実があるといいうるためには、被告主張のごとき事情によつて、債権回収の見込みのないことが確実となつた場合でなければならないと解すべきところ、成立に争いのない乙第三号証および本件弁論の全趣旨によれば、小河内観光開発は、昭和三九年八月二一日の取締役会において原告を含む債権者四名に対する借入金の返済につき協議をしながら、その具体的方策の決定は留保していること、また、原告が右貸金について債権の放棄、債務の免除等をした事実はなく、同会社においても確定決算において債務免除益を益金に計上していないことを認めることができるので、本計算年度において原告主張のごとき債権貸倒れの事実があつたものとは認め難い。
そればかりでなく、およそ資金の貸付行為が所得税法の事業に該当するかどうかは、同法にいわゆる事業の概念につきなんらの規定も設けられていないので、同法が事業所得と雑所得とを区別して取り扱うこととしている法意と社会通念に照らして、その営利性、継続性および独立性の有無により、すなわち、具体的には、利息の多寡、貸付の口数、相手方との関係、貸付の頻度、金額の大小、担保権設定の有無、貸付資金の調達方法、利息収入の総所得において占める割合い、人的および物的設備の有無、規模、貸付宣伝広告の状況等諸般の事情を総合判断することによつて決定すべきである。
ところで、原告が昭和三四年七月より昭和四〇年一〇月までの間小河内観光開発株式会社に対し二二回にわたつて計三、三一九万五、一四六円、合同印刷株式会社に対して五〇万円、株式会社静わさびに対し二回にわたつて計六〇〇万円、株式会社森島直線工業所に対し五回にわたつて計一〇〇万円、以上合計四、〇六九万五、一四六円を貸し付け、その間の利息金額が、小河内観光開発分計一二〇万二、六七一円、合同印刷分八、七〇〇円、静わさび分二九二万五、六〇〇円、森島直線分五万円であることは、当事者間に争いがない。
しかし、成立に争いのない甲第一六号証の一、乙第一ないし第四号証、原告本人尋問の結果真正に成立したものと認める甲第九号証の四、五、証人A、Bの各証言並びに原告本人尋問の結果(但し、証人A、原告本人の各供述中、後記の信用しない部分を除く。)によれば、次の事実を認めることができる。
すなわち、原告は、その貸付先である合同印刷、小河内観光開発および静わさびの大株主であつて、その代表取締役の地位にあり、また、森島直線の社長は、小河内観光開発の取締役であり、当時、これらの会社は、資金繰りが苦しかつたこと、原告は、その貸付に当つては、いずれの場合も担保権の設定を受けておらず、利息の点についても、原告の小河内観光開発に対する貸付金は、主として、中央信用金庫駒形支店からの借入金によつていたが、前者の貸付利率も後者の借入利率も、ひとしく日歩三銭であり、小河内観光開発からの受入利息がそのまま中央信用金庫駒形支店への支払利息に充当されていること、また、原告は、金融業者としての届出をしておらず、独立した事務所も有していたわけではなく、C等を使用して合同印刷の一隅で貸付事務を処理させていたにすぎず、もとより、金融業の宣伝活動を行なつた事実もないことを認めることができ、右認定に牴触する証人Aおよび原告本人の各供述部分は、前掲各証拠と対比してたやすく信用できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
しかして、右認定に係る諸事実からすれば、前記当事者間に争いのない貸付の期間、回数、金額および利息の多寡等を考慮し、また、右期間内における利息収入の総所得において占める割合いが原告主張のとおりであると仮定しても、原告の資金貸付行為は、いまだこれをもつて所得税法上の事業とは認めることができず、したがつて、右貸付行為は、非営業貸付であつて、その貸金元本等の回収不能は、資産損失であつて、所得税法上の必要経費には該当しえないものである。
よつて、以上いずれの点からみても、本件更正処分には原告主張のごとき瑕疵はなく、原告の請求は、その理由がないので、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

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